橘 誠一郎この土地を初めて訪れたのは2008年の秋でした。当時は東京の外資系ホテルチェーンで料飲部門のマネージャーをしていて、出張の帰りに偶然立ち寄った温泉宿で、夜中に一人で川の音を聞いていたときのことです。「これだけでいい」と思った、とよく話しています。その3年後、2011年の春に、この渓谷沿いの土地を取得して建設を始めました。設計は地元の建築家・村田工務店に依頼し、できるだけ既存の木を残す形で建物を配置しました。開業当初は4室でした。
最初の2年間は、料金体系が今とは違いました。食事は別料金で、アクティビティも都度精算でした。そのやり方を変えたのは、2013年の秋にあるご夫婦からいただいた一言がきっかけです。「楽しかったけど、最後の精算が少し残念でした」。その言葉が刺さって、翌年から全込みの一律料金に切り替えました。値段は上がりましたが、リピーターの割合はその後2年で大きく増えました。今では、ご予約のうち約6割が過去にご宿泊いただいたお客様です。